
校庭の芝生化は、子どもたちに安全で快適な遊び場をつくる取り組みとして、長く各地で続けられてきました。しかし、その足元の土の中で何が起きているかは、これまでほとんど測られてきませんでした。芝生に覆われた校庭の土は、大気中のCO2を有機物として蓄える「貯炭層」へと静かに変わっていきます。私たちは土壌診断でその変化を数値にし、学校・自治体・企業をつなぐ新しい仕組みをご提案します。
課題:「やりたいのに、できない」——校庭の芝生化を阻む壁
直面する二つの危機——気候変動と、学校環境の悪化
2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、残された時間は多くありません。気温の上昇は年々深刻さを増しており、対策は待ったなしの状況です。とりわけ都市部では、CO2を吸収する緑地そのものが限られており、実効性のある吸収源をどこに確保するかが大きな課題となっています。
一方、学校の現場では、これとは別の危機が進行しています。

- 熱中症リスク:夏季の屋外活動の制限が、すでに常態化しつつあります。
- 砂ぼこりの被害:近隣への飛散、校舎内の清掃負担、呼吸器への影響が指摘されています。
- 照り返しと高温:アスファルトや裸地のままの校庭は地表面温度が著しく上昇し、ヒートアイランド現象を助長しています。
この二つの危機は、じつは同じ一つの場所で、同時に解くことができます。それが「校庭」です。
校庭の芝生化がもたらす価値は、すでに知られている
校庭を芝生にすることの効果は、これまでも取り組んできた学校で確かに実感されてきました。
| 効果 | 内容 |
| 安全性と運動能力 | 転倒時のけがが軽減され、子どもたちが思い切り身体を動かせるようになります。スポーツ技術の向上にもつながります。 |
| 豊かな情操 | 土や緑に日常的に触れることで、自然への感受性や、仲間との協調性が育まれます。 |
| グリーンエフェクト(心理的効果) | 緑のある環境は、子どもたちのストレスを和らげ、情緒を安定させることが知られています。 |
| ヒートアイランド現象の緩和 | 芝の蒸散作用によって気温の上昇が抑えられ、地表面からの照り返しも防がれます。 |
「豊かな情操や自然への感受性を育む」——これが、これまで校庭の芝生化を支えてきた原動力でした。
それでも進まないのは、なぜか
これだけの価値がありながら、校庭の芝生化は全国に広がりきっていません。そこには、立場の異なる二者が、それぞれ別の壁にぶつかっているという構造があります。
| 立場 | 直面している課題 |
| 学校・自治体の壁 | 芝生化の教育的・環境的な価値は理解しているものの、造成費と維持管理費を捻出することが難しく、計画が前に進みません。着手できたとしても、数年で維持が困難になる例が少なくありません。現場でのボランティアでの対応も限界があります。 |
| 企業の壁 | 地域に根ざしたESG・SDGs貢献に取り組みたいものの、効果が確かで、社内外にきちんと説明できる投資先が見つかりません。 |
欠けていたのは、両者をつなぐ共通の「ものさし」

学校には場所と意欲があり、企業には資金と意志がある。それにもかかわらず両者が結びついてこなかったのは、あいだに立つ共通言語がなかったからです。
これまで、校庭の芝生化がもたらす脱炭素効果は、客観的な数値で示されてきませんでした。数値がなければ、企業は投資の成果を説明できず、自治体は継続予算の根拠を示せません。素晴らしい取り組みが、環境価値として評価される対象になりにくかったのです。
解決策:三方良しの循環モデル「ZeCS認証」
私たちは、土壌科学によって校庭の環境価値を「証明」し、学校・企業・地域のあいだに新しい循環を生み出すことを提案します。その仕組みが、ZeCS(Zero Carbon School)認証です。

| 立場 | 役割と得られるもの |
| 企業 | 協賛金を提供し、その学校の取り組みを自社の活動として発信できる「アピール・ライツ(広報権)」を得ます。地域名と学校名を挙げて語れる、実体のあるESG活動になります。 |
| 学校・自治体 | 支援を受けることで、実質的な負担をほぼゼロに抑えながら、校庭の芝生化とその維持を実現できます。 |
| 当社 | 土壌の炭素貯留量を定量化し、その結果に基づいてZeCS推進団体がZeCS認証を発行します。データは学校と企業の双方に還元されます。 |
| ZeCS推進団体(想定) | 地域の産官学等で設立され、企業から学校への資金提供の橋渡し、ZeCS証、アピールライツの付与などを行うことを想定しています。この仕組みについては、地域の皆様と相談しながら作り上げていきたいと考えています。 |
ZeCS認証は、カーボンクレジットではありません。
現行のJ-クレジット制度には、校庭の芝生化による土壌炭素貯留を対象とした方法論はありません。ZeCS認証は、企業の排出量から差し引くための排出権ではなく、学校の脱炭素の取り組みとその成果を、科学的なデータに基づいて第三者的に評価・可視化するための「認証」です。企業のみなさまには、地域貢献および環境教育支援の成果を、確かな根拠とともに開示・発信できる仕組みとしてご活用いただけます。
根拠①:科学が可視化した「土壌の変化」


芝は光合成によって大気中のCO2を取り込み、有機物へと変換します。その有機物は根や刈りかすを通じて土の中へと送り込まれ、炭素として土壌に蓄えられていきます。
芝生化から十数年が経過した校庭の土壌を採取したところ、地表から厚さ5~10cmにも及ぶ黒い有機化層——すなわち炭素貯留層——が形成されていることが確認されました。校庭が炭素を貯めるタンクへと変わっていた、動かぬ証拠です。
根拠②:研究が示した、炭素貯留量
学校の校庭の芝生化による炭素貯留については、神戸学院大学を中心とした研究チーム(当社も参加)により神戸市の学校の校庭をフィールドにした研究成果が国際芝草学会の査読論文として2025年5月に公表されています(Measurement of carbon storage in schoolyard grass areas at elementary schools in Kobe, Japan)。
この成果を踏まえて、京都市の小学校で行われた実証調査では、校庭の芝生化により1haあたり4.0~5.1t相当の炭素の貯留効果があることが明らかになりました。その結果は、2025年10月の日本芝草学会秋季大会で報告(「京都市の校庭芝生化による土壌炭素貯留量の増分測定(試行)」)で発表されています。
年間 約4.0〜5.1 t-CO2/ha の増加
これは、京都市内の学校およそ260校をすべて芝生化した場合、学校およそ10校分の年間CO2排出量に匹敵する削減効果にあたります。校庭は、都市のなかに残された数少ない「面」の吸収源なのです。

学校全体のCO2収支を可視化する
ZeCS認証が評価するのは、芝生の吸収量だけではありません。学校という一つの施設が排出しているCO2と、校庭が吸収・貯留するCO2の双方を捉え、収支として可視化します。
| 区分 | 内容 |
| Scope 1(直接排出) | 暖房・給湯・調理など、学校が直接使用する燃料に由来する排出。 |
| Scope 2(間接排出) | 購入した電力の使用に由来する排出。 |
| Scope 3(その他の間接排出) | 資材の購入や廃棄物の処理などに由来する排出。 |
| NEP(正味生態系生産量) | 校庭の芝生が光合成と呼吸を通じて、正味で土壌に固定する炭素の量。 |

排出側を減らし、吸収側を増やす。この両輪を一枚の図で示すことで、その学校のゼロカーボン化がいまどこまで進んでいるのかが、誰の目にも明らかになります。
ZeCS認証の評価基準
ZeCS認証は、達成の度合いに応じて5つの段階で評価します。(イメージ)

評価は、次の3つの軸で行います。

単に芝生を植えるだけではなく、学校経営全体の総合的なゼロカーボン化を評価する。それがZeCS認証の考え方です。段階制としているのは、まだ検討を始めたばかりの学校であっても、その最初の一歩を認証というかたちで示せるようにするためです。
未来:土と緑が育む、子どもたちと地域の未来

このプロジェクトは、単なる脱炭素の取り組みにとどまりません。子どもたち、企業や地域にも大きな価値を生み出す。
| 対象 | もたらされる価値 |
| 子どもたち(For Children) | 自分たちの校庭の土を実際に採り、その数値が地球とどうつながっているかを学ぶ。生きた環境教育を実践する場になります。安全な遊び場が確保され、心身の健康増進にもつながります。 |
| 企業(For Companies) | 地域に根ざしたESG活動として、次世代育成への貢献と企業ブランド価値の向上を同時に実現できます。 |
| 地域(For Community) | 芝生の校庭は、地域に開かれたコミュニティ形成の拠点となります。ヒートアイランド現象の緩和とあわせ、ネイチャーポジティブなまちづくりの起点になります。 |
地域の自然資本を、教育・金融・地方創生につなぐ
いま、地域の自然と暮らしを起点に、実践と評価と運営を結びつけようとする動きが各地で生まれています。環境価値を「創出し、可視化し、流通させ、活用する」までを一続きのものとして捉える考え方です。
校庭の芝生化は、その入り口として理想的な題材です。子どもがいて、地域があり、まとまった面積があり、そして何より、測ることができる。私たちは土壌科学という一点から、この大きな流れに参加していきます。
校庭の土が変われば、子どもたちの未来も、地域の未来も変わります。
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