福岡県朝倉市の果樹園復活プロジェクトは新たな段階へ

 福岡県朝倉市で、高齢化と担い手不足、九州北部豪雨災害の影響で耕作放棄された果樹園を復活するプロジェクトが進められており、新たな段階に入ろうとしています。

 この果樹園は、福岡県朝倉市烏集院新立にあります。2017年の九州北部豪雨災害によって土砂崩れが何カ所もあり、果樹園に通じる農道が寸断され、柿の木と雑草、蔦がからまって、かつての果樹園はすっかり荒れ果てていました。

整地前の段々畑

 朝倉市在住のSOFIX診断士である原田淳一さんは、重機を使って農道や畑の土砂を取り除き、古くなった柿の木を伐採し、新たに桃、柿、すももなどを植え付けて、果樹園を復活させることを目指しています。土壌づくりにあたってはSOFIX(土壌肥沃度指標)による土壌分析を予定しています。将来的には、一般の人がこの果樹園で栽培や収穫の体験もできるようにする構想です。

 原田さんは、この構想の実現へむけて、クラウドファンディング(終了済)を行うとともに、今年の夏から、バックホーを使って農道に覆いかぶさっていた土砂を除去する作業を続け8月末には農道を開通させることができました。

 9月に入ってからは、段々畑の土砂撤去と整地に着手し、11月初旬には整地を9割ほど完了し、現在は最後の仕上げに入っています。

 原田さんからは、今後の予定について、次のようなレポートを頂いています。


原田さんからのレポート

 ①下草造り
 近所の養蜂場からレンゲ草の種27kg無償で頂きましたので、畑に撒いてバックホーで整地を兼ねて漉こうと思っています。

 ②イノシシ、鹿対策が急務
 イノシシが苗木を根こそぎ掘り起こし、鹿が新芽を食べますので、電気柵を張ります。さらに竹の柵をはりめぐらし、イノシシ、鹿対策を来年3月までに完成させます。

 ③竹を使った水槽づくり
 直径15cmぐらいの大きな竹が沢山生えてますので、それを使って雨水を集め、竹水筒に流しこんだ水槽を何十カ所に置こうと思ってます。除草剤や消毒散布、渇水時の果樹への散水、手や器具の洗浄に使いたいと思います。
 将来は中空糸膜フィルターやROフィルターを使って浄水作りに取り組む予定です。

 ④電気は発電機
 噴霧器、水中ポンプ、電動工具、電灯など電気が必要な時の為に設置(持運び可能タイプ)を考えております。

 ⑤トイレづくり
 非常用・キャンプ用の簡易トイレを設置します。

 ⑥商品づくり、
 果樹園を訪れた人のために、竹とんぼ組立セット、竹ばしご、竹馬、柿木の薪などを販売用に作ろうと思ってます。

 ⑦古い柿の木の伐採
  桃、柿、すももなどを新たに植えるために、古い柿の木は伐採します。ただし、法面保護のため伐根はしません。

 12月に入ったら、堆肥を入れていきます。年が明けて、1月に入ってからSOFIXによる土壌分析をおこない、桃、柿、すももの定植を行う予定です。

 
==<原田さんからのレポート終わり>==

 当社としては、原田さんの果樹園復活プロジェクトを応援しています。

宮地嶽から見た新立果樹園

環境先進都市から有機農業の推進へーー「オーガニックビレッジ宣言」を発した亀岡市の取り組み

 11月4日(土)、ひとまち交流館京都(京都市下京区)で、亀岡市の有機農業の取り組みについての講演会と映画『種とゲノム編集の話』の上映会が開催されました。主催は、京都種子(タネ)と食の安全を守る会準備会で、約40人が参加しました。

 主催者あいさつの後、京都府内でいち早く「オーガニック・ビレッジ宣言」を発して、精力的に有機農業を推進している亀岡市の取り組みについて、亀岡市役所の農林振興課副課長である荒美大作さんから、要旨つぎのような講演がありました。

分かりやすく講演する荒美さん

①亀岡市の概要

 亀岡市は、京都市の西隣にあり、人口は約87,000人。湯の花温泉保津川下り嵯峨野トロッコ列車などの観光資源があり、最近ではサンガスタジアムが開設されている。

 農業の特徴としては、農業経営体が1,487(うち法人30)、経営耕地面積1,641ha。農業出荷額は62億円(2021年)で、これまでは米や野菜が多かったが、最近は鶏類の伸びが大きい。

 有機農業への取り組みは、農林業センサス(2020年)によると経営体の7%、作付面積の5%となっている。

 しかし、全国の農村地域とおなじように担い手不足が深刻化しつつあり、農業従事者は2020年から2030年の10年間で47.5%がリタイアする可能性がある。

②これまでの取り組み

 亀岡市では、全国に先駆けてプラスチック製レジ袋の提供を禁止する条例を施行するなど、「環境先進都市」を目指す取り組みをおこなっている。そのきっかけとなったのが、保津川にプラスチックごみが散乱していることだった。そこから、2004年に保津川下りの船頭さんによる清掃活動が始まった。その活動がだんだんと広がり、2008年には保津川の環境保全に取り組むNPO法人プロジェクト保津川が発足した。その動きは、やがて行政も動かして、2015年には亀岡市が「環境先進都市を目指すビジョン」を制定した。

 2021年には「亀岡市プラスチック製レジ袋提供禁止に関する条例」が施行されるに至った。

 こうした環境先進都市の取り組みの発展として、市として有機農業を推進するようになった。その背景の一つは、新規就農者のなかで有機農業を希望する人が増え、85名の新規就農者のうち24名が有機農業を実践(2021年度)していることである。市としても、農業の担い手の確保、農産物の高付加価値化、農業由来の環境負荷の低減という観点から有機農業の推進を加速化している。

 これまでに取り組んできたことは、次の通り。

(1)生産者への補助制度の創設
・有機JAS認証の取得支援(3年間 1年目7/10、2年目6/10、3年目5/10)
・土壌診断の費用の補助
・給食での有機米・野菜購入に対する差額支援

(2)保育所・学校給食への有機野菜・米導入
 有機農産物の販路確保のための出口戦略として、保育所・学校給食への有機米・野菜の導入を進めている。小学校の給食は、市内の全ての学校の給食を1ヶ所のセンターで調理している。午前中にすべて調理をして、給食を届けるためには、野菜を機械でカットする必要があり、1日5,000食分となるとある程度形や大きさなどの規格を揃えないとと間に合わない。しかし、現状では、有機栽培の野菜でそれだけそろえるのは難しいので、まず自園で調理をしている保育所やこども園から有機野菜を供給している。小学校については、野菜ほど規格が細かくないため、有機米から進めている。

(3)オーガニックをすすめる団体との連携
亀岡オーガニックアクション(有機米栽培)
自然派京都有機農業推進協議会(研修会開催等)
かめまる有機給食協議会(有機野菜提供・マルシェ)

 農水省は、「みどりの食料システム戦略」を打ち出し、2050年までに耕地面積に占める有機農業の取り組み面積の比率を25%にまで引き上げることを打ち出し、国としても有機農業を進める方向へ舵を切った。

 亀岡市としても、農水省が進める「オーガニックビレッジ」に手を上げ、2023年2月12日に「オーガニックビレッジ宣言」を発した。これまで有機農業の推進で実績を積み重ねてきた自治体に比べたら、亀岡市はまだ始まったばかりだが、「オーガニックビレッジ宣言」を発したのは全国で二番目だった。

③これからの取り組み

これからの取り組みとしては、有機農業を地域ぐるみで推進するために
①地産地消・給食への展開拡大
②有機農業の学校(来年2月開講)による育成プログラム
③亀岡市独自の有機認証制度の検討
④有機農業の拠点としての「オーガニック・ビレッジパーク」の整備など、市民参加の推進
などを進めていく。

 以上のような荒美さんの熱のこもった講演にたいして、参加者は熱心に聞き入っていました。講演後の質疑応答でも、「亀岡市の有機農業への予算はどれぐらいになっているのか」「プラスチックごみをなくす活動と有機農業推進とを結び付けて欲しい」「有機農産物を選ぶという消費者の意識改革も必要ではないか」「有機農産物が一部のお金がある人だけでなく、お金のない人にも行き渡るようにしてほしい」など、様々な角度からの質問や意見が出され、荒美さんとのさらに討論を深めました。

 このイベントの後半では、農業にとって大事な種子の問題を考えるための素材として、映画『種子とゲノム』が上映されました。この問題についても上映後、意見交換がおこなわれました。

参考情報
「オーガニックビレッジ宣言」を行っている長野県松川町では、一般社団法人SOFIX農業推進機構が協力機関として参画し、SOFIX(土壌肥沃度指標)による土壌診断を実施。
 ・農林水産省ホームページ 松川町の取組概要
 ・第12回SOFIX実践・事例研究会 長野県松川町でのオーガニックビレッジの取組

有機農業と東洋医学に共通する原理ーー日本養生普及協会の学術集会に参加して

 11月11日の午後、一般社団法人養生普及協会の学術集会にオンラインで参加しました。

 養生普及協会は、東洋医学の「養生」という考え方を現代に活かすことを目的に結成され、当社代表の松田も会員になっています。

 大変興味深い報告が沢山ありましたが、養生普及協会の会長であり、明治国際医療大学の鍼灸学部教授・学部長である伊藤和憲先生のお話がとくに興味深かったです。

 伊藤先生によれば、健康とは、肉体的・精神的だけでなく、社会的にも満たされたものであるべきだと言われています。

 医療は最初は、寿命を延ばすことを目的として、そのために様々な治療やリハビリなどが発展してきました。

 これによって寿命は延びましたが、最後の十数年は寝たきりなど不健康な状態が続くようになったので、次は「健康寿命」が追求されるようになりました。それもいずれ達成されるでしょう。

 その次に今、追求すべきことは、Well Beig ーー 亡くなる直前まで、健康で幸せに暮らせること、自分らしく、自分の価値観で楽しく生きられることです。昔から言われている「ピンピンコロリ」が課題になってきます。

 そのためには、病気にならない生活習慣を身につけていくこと。それが東洋医学で長年培われてきた「養生」だということです。

 ただ、この「養生」は、一人だけでできるものではなく、社会全体、地域全体が良くなることと結びつかないとなかなか実現できないということです。 経済格差が広がれば、健康的な生活習慣を送れない人々が増えるのは、今の現実をみればわかることです。

 そのため、地域全体で、健康的な生活を送れるようなコミュニティをつくること、そのなかには、旬の食べ物を食べ、季節に根差した祭りやイベントなどを通して、地域の人々がつながっていくことが重要となります。また、そうしたコミュニティを通して、地域の農業や観光業などの産業を活性化して、地域を豊かにし、人々の収入が増えることも不可欠です。さらに、こうした養生生活を送ることで、どれだけ健康が増進しているかのデータをとり、蓄積し、ビッグデータでしっかり検証していくこと。こうしたことを養生普及協会では考えておられるということです。

 有機農業と東洋医学に共通する原理があります。それは、病害が発生すれば農薬を使い、病気になればその症状を抑える薬を処方するという対処療法ではなく、農耕地や人間の心身の全体を見て、農耕地の「地力」や人間の「免疫力」を高めることを通じて、病気の根本原因を取り除くことです。

 ソイル・コミュニケーション合同会社は、SOFIX(土壌肥沃度指標)技術を活用し、「土づくり」から有機農業や循環型型の地域社会をつくっていくことを目指しています。この事業も、東洋医学や地域のコミュニティづくりと密接に関連したものです。 まだまだ、当社も非力ですが、養生普及協会さんとも連携を深めていきたいと考えているところです。

学校校庭の芝生化による炭素貯留効果を検証

 11月1日(水)、神戸学院大学で、「土壌中の炭素貯留による低炭素社会の構築のための学校校庭の芝生化と有機農業の推進」というテーマの研究プロジェクトの第2回目の会議が開催され、当社も参加しました。

 この研究は、温室効果ガスの低減の方策の一つとして、土壌への炭素貯留が課題となるなかで、「学校の校庭の芝生化」と「農地への有機肥料の施用」によって土壌への炭素貯留量を増やすことと、それを数字で「見える化」することを目標としています。研究代表者は、神戸学院大学の現代社会学部の菊川裕幸講師で、神戸市の「大学発アーバンイノベーション神戸 研究費助成」事業の支援を受けて、2022~2023年度に取り組まれています。

 2022年度の取り組みでは、学校給食の残渣や地域の有機資源である竹チップを使った堆肥製造の実験をおこないました。

 参考:肥料コスト低減につながる堆肥を使うには品質の見極めが大事

 2023年度は、学校の校庭の芝生化による炭素貯留効果を実測するための土壌分析等を行いました。また、前年度に作成した堆肥による農産物の栽培実験をおこないました。

 当社は、この実験のなかで、堆肥のMQI(堆肥品質指標)分析3項目(総細菌数・全炭素量・全窒素量)分析、土壌の3項目分析と分析データの評価などでをおこないました。

 11月1日の会議では、この間の学校の校庭の土壌の分析結果をどうみていくかについて活発な議論を交わしました。

 この研究プロジェクトは最終的には、神戸市の「地球温暖化防止実行計画」で打ち出されている二酸化炭素吸収源対策を実現することを目指しています。当社も、このプロジェクトに参加して、低炭素社会の実現に貢献できればと考えています。

芝生が張られた場所での土壌サンプリング