土壌診断と新規就農、薬草、地域の食文化などを語る——奈良・宇陀市でSOFIX勉強会を開催しました

奈良県宇陀市で開催したSOFIX勉強会に、地域の農業生産者を中心に約25名が集まりました。土壌診断・新規就農・薬草・獣害対策・地域の食文化まで、多彩なテーマの発表と活発な意見交換が行われた2時間のレポートをお届けします。

開催概要:多彩な顔ぶれが宇陀に集結

2026年6月15日(日)午後2時から、奈良県宇陀市の農業体験民宿さくらでSOFIX勉強会を開催していただきました。参加者は地域の農業生産者を中心に、料理研究家・薬草研究家・獣害対策の専門家・NPO関係者・一般市民など、農業と食と地域づくりをキーワードに多彩な約25名が集まりました。
宇陀市は「薬狩り発祥の地」として知られ、大和当帰などの薬草文化、宇陀金ごぼうなどの伝統野菜、そして肥沃な土壌という農業的な個性を持つ地域です。そうした地域の強みを「土壌の科学」と掛け合わせるとどうなるか——その可能性を探る場となりました。

講演:土壌の科学で農業の未来を変えるSOFIX(松田文雄)

最初に当社代表・松田文雄(奈良女子大学特任教授)から、SOFIXの概要と宇陀市の土壌の特徴について講演しました。

「窒素・リンの循環は、すでに危険領域に入っている」

講演の冒頭で松田は、農業が「地球上の物質循環(炭素・窒素・リン・イオウ・ミネラル)」の上に成り立っており、その循環を回すエンジンが土壌微生物であることを説明しました。化学肥料(N・P・K)への過度な依存は土壌のミネラルバランスを崩し、農産物のミネラル低下を招いているとしたうえで、環境科学の概念「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」を引用。窒素・リンの循環はすでに深刻な「危険領域」に突入しており、持続可能な循環システムの構築が急務であると強調しました。

SOFIX(土壌肥沃度指標)とは何か

SOFIXは立命館大学・久保幹教授らが開発した土壌診断技術です。従来の土壌検査では難しかった「生物性(微生物量や循環活性)」を科学的に数値化・見える化します。総細菌数(畑の目安:2億個/g以上)、窒素循環活性、リン循環活性などの指標をもとに、土壌の肥沃度を4段階・9パターンで判定。サニーレタス・ミニトマト・水稲などの活用事例では、施肥設計の最適化により化学肥料や農薬を削減しつつ収量・品質の向上を実証しています。

宇陀市の土壌の特徴——「雲母(きらら)」が育む伝統野菜

宇陀市は「褐色森林土」「黒ボク土」「低地水田土/グライ土」がモザイク状に分布する、土壌の多様性という点で非常に恵まれた地域です。宇陀市の面積の大部分を占める森林には、落ち葉が微生物によって分解された豊かな腐植を多くむ「褐色森林土」が広がり、下流の田畑に絶えず栄養を共有しています。数千万年前の火山活動(室生火山岩類)に由来する一部地域の土壌には「雲母(きらら)」の微粒子を大量に含む重い粘土質土壌が存在します。この土が抜群の保肥力を生み出し、幻の伝統野菜「宇陀金ごぼう」のような風味豊かで柔らかい根菜類を育む要因になっています。

新規就農者の本音:「錆びた包丁」しかもらえなかった(田尻恵士氏・サムズアップ農園)

今回の勉強会で最も参加者の共感を集めたのが、サムズアップ農園・田尻恵士氏の発表でした。林業から転じて新規就農した田尻氏は、宇陀市内の複数地区で農業を営みながら、荒廃農地の開墾(草刈り・カチカチの土・鹿による獣害)の厳しさと、先輩から譲り受けた良好なハウス農地との「格差」をリアルに語りました。
「日本の農業では、新規就農者に条件の悪い農地——例えるなら『錆びた包丁』——があてがわれがちです。そして根性論を求められた結果、離農してしまうケースが後を絶ちません」と田尻氏は指摘します。

「畑のリハビリ・開拓ラボ」——農地を次世代にバトンする仕組みづくり

田尻氏が提唱するのが「畑のリハビリ・開拓ラボ」プロジェクトです。着想を得たのは母親の人工関節リハビリの経験から。農地も同様に、現状(マイナス状態)を把握し、ゴールを決めて、SOFIXなどの方法論を用いてプラス・マイナスゼロの「耕作可能地」に再生した上で、次の世代や田舎暮らしを望む人にバトンを渡す——そんな農地再生の仕組みを目指しています。

「属人的になりがちな農地データを、SOFIXを活用して見える化・データベース化することで、ギャンブル的な就農をなくしたい」と田尻氏。さらに草刈りや竹炭作りなど市民参加型の取り組みで農業を健康増進にも繋げ、2026年7月にはコンソーシアムを結成、11月に「開拓キャンプ」を実施予定です。

「素材の命を生かす料理」が地域をつなぐ(土井敏久氏・ライブフーズ)

料理研究家・土井勝氏を父に持ち、宇陀との深い縁を感じて活動する土井敏久氏(ライブフーズ)は、「食材を生かす」という料理の原点を語りました。
「現代は化学調味料や複雑な味付けが多用されていますが、素材そのものの本物の味を活かす調理のほうが、簡単で美味しく、かつ健康に繋がる。地元のお米や野菜を一番美味しく食べるために、水加減など基礎基本の料理方法を知ることが大切です」と土井氏は言います。
宇陀の豊かな食材を通じた地域づくりへの思いは、SOFIXによる「健全な土が育む本物の食材」というコンセプトと深く共鳴するものでした。「良い土が、良い食材を育て、良い料理になり、人の健康につながる」という一本の線が、参加者の間で共有された瞬間でした。

その他の発表:菊芋・獣害対策・薬草研究

健康野菜農家への転換と菊芋の可能性(福角毅氏・福角兄弟農園)

過酷な夏場のハウス栽培から「機能性の高い健康野菜農家」への転換を決意した福角毅氏(福角兄弟農園)は、菊芋(キクイモ)の機能性について発表。特に水溶性食物繊維「イヌリン」が腸内で酪酸を生成し、腸壁の炎症を抑えて免疫力を高めるメカニズムを紹介しました。SOFIXについては「中身(微生物の状態)がわかる見える化は有機栽培の正しさを確認するうえで非常に有効。費用対効果を考えれば検査価格は非常に安い」と評価しました。

自然素材の忌避剤で「住み分け」を(堀家昭男氏・チャコールクラブ)

宇陀市ではイノシシに加え、何千頭とも言われるシカによる獣害が深刻です。堀家昭男氏は竹酢液・唐辛子・ニンニクを配合した自作の忌避剤を紹介。駆除ではなく匂いと光で獣道を避けてもらう「住み分け」という発想で、有機・無農薬農地を守るアプローチとして参加者の注目を集めました。

大和当帰の食文化活用(天野知津代氏・薬草研究家)

薬草研究家の天野知津代氏は、宇陀が全国有数の産地として知られる大和当帰(ヤマトトウキ)について発表。2012年の規制緩和により根だけでなく葉・茎は食品として活用可能となり、奈良県では食文化としての普及に力を入れています。含有成分「リグスチリド」の血液浄化作用なども紹介され、薬草と土壌の関係への関心が高まりました。

参加者から「SOFIXを試してみたい」という声が続出

全体を通じた意見交換では、現場農家から「自分の畑でもSOFIXを使ってみたい」という声が複数あがりました。「データで土の状態がわかれば、長年の経験と勘を裏付けられる」「有機栽培の効果を客観的に示せるようになりたい」といった具体的なニーズが寄せられました。

また生産者から「紫の菊芋に転換したら血圧が下がり体調が良くなった」という体験談も寄せられ、宇陀を「健康のまち」とするために、菊芋・薬草・SOFIXによる健全な土壌づくりを地域全体で普及させていくことが今後の重要テーマとして確認されました。

まとめ:「土の科学×地域の叡知」が宇陀から広がる

農業生産者・料理研究家・薬草研究家・獣害対策の専門家・新規就農者——異なる立場の人々が「土と食と健康」という共通項でつながったこの勉強会。SOFIXという科学的なデータが、現場の経験や地域の叡知と結びついたとき、「新規就農をギャンブルにしない」農業の未来が見えてきます。
ソイル・コミュニケーションは、こうした地域での対話と実践を続けながら、土壌診断を通じた持続可能な農業の実現に取り組んでいきます。

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